渡月橋から眺める嵐山の景色はよくよく見るとチョット不思議だ。川が突然出現している!ように見える。もちろんそれは川が蛇行しているために上流が見えないだけの事ではある。しかし、右岸からせり出した嵐山が上流を見事に隠している事と、そこで川幅が急に広がっている事が不思議な視覚効果を造っている。紅葉が盛りの今時などは、あたかも錦の屏風の前に川の舞台がある様に見えなくもない。
まるで舞台の袖に消えるように川筋は嵐山の奥に消えているのだが、その奥とは言わずと知れた保津峡である。嵐山から保津峡へ行くにはJR山陰線やトロッコ列車を利用するのが便利だ。では道はどうかと言うと、一本だけある。嵯峨鳥居本から六丁峠を越えるルートだ。車も通れるが、余りお薦めはできない。渓谷沿いの道は決して良いとは言えない。

21日の月曜日、僕は休日だった。朝から雲ひとつ無い青空だった。それならばと僕は六丁峠を越えた。もちろん自転車である。鳥居本から一気に登り切りたいのはヤマヤマだったが、そこは何だ、中年男である自分の心肺能力と相談して途中で一度休憩を入れた。何せ後半の斜度は殺人的だ。腰をサドルから上げてペダルに体重を掛けるダンシングで登った。死にそうにしんどかった。空気は冷たいのに汗が出る事、ヨダレも出た。
峠から渓谷までは下り坂と言うよりは崖下に落ちるようだ。ブレーキを引いたまま葛篭折れを降りて来た。嵯峨鳥居本から数分の距離なのに、このギャップはどうだろう。方や多くの観光客で賑わっているが、峠を挟んで反対側は人を寄せ付けない大秘境である。表と裏のギャップが面白い。逃げ場の無い渓谷沿いに道は一本、インディ・ジョーンズじゃなくても冒険心をくすぐられる風景だ。

道は愛宕山麓の登りが続く。途中、山の斜面に黄色い果実が現れる。水尾は柚子の里だ。青い空と黄色い柚子が印象的だった。その後、暫く続いた登りが終わると棚田が広がる集落に出た。越畑である。山頂の紅葉が美しい。別れ道を左に行けば八木・亀岡方面、道成りに行けば神吉を経て日吉ダムに至る。どちらへ向いても下りが始まる。

越畑から始まった爽快な下りも神吉集落辺りで一段落して道は平坦になる。しかし、集落の外れで道は再び下り出す。下った先が日吉ダムだ。この下りはなかなか凄い。車なんて滅多に来ない。ここまで頑張ったご褒美である。ただ、森林に囲まれた日陰の下り道は寒そうだ。ウィンドブレーカーのジッパーを首まで上げた。空は相変わらず馬鹿みたいに青かった。