吾唯足知

11月の終わり、龍安寺を訪ねた。時は紅葉のピークである。人出は多いが、未だ尾を引くコロナ禍の影響で外国人の姿はあまり見ない。海外からの旅行客で溢れかえっていた時に比べれば、今年は静かな京都紅葉劇場である。

方丈庭園(石庭)の縁側に座った。若い頃から何度も訪れている庭である。日本の寺院に石庭は多いが、龍安寺のそれは、”枯山水の極致”と評される。

龍安寺を懐に抱くのは衣笠山である。さらに東に金閣寺、西に仁和寺があって、三寺院はいづれも世界遺産である。

adsense

今や世界的に有名になった龍安寺の石庭だが、「渓流を虎が我が子を連れて渡っている」ように見えるため「虎の子渡し」とも呼ばれる。置かれた石は虎の親子だというのだ。親の後をついて歩いた虎の子は無事に渡れたのだろうか。

方丈の北側には、水戸光圀の寄進と伝えられる「吾唯足知(われ ただ たる を しる)」と刻まれた蹲踞(つくばい)がある。要約すれば「満足する気持ちを持ちなさい」との意味だ。限りの無い人間の欲や傲慢を戒める禅の教えである。

他人と比べることなく、ただ己の足るを知る。少し先に還暦という標識が見えてきたオヤジだが、これまでの人生の愚昧ぶりを見透かされたような禅の命題は、鮮烈で脅迫的ですらある。初冬の昼下がり、枯山水の庭に弱い光が差しこんでいた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください