天橋立とノスタルジーの海

海と陸が創る景色というのは、洋の東西を問わず人を引きつける。日本三景の一つに数えられる天橋立はまさにそうだ。宮津湾の海流が砂を運び、それが堆積して砂嘴(さし)を創り、対岸まで延びて砂洲を形成した。途方もない年月を掛けて出来上がったのは、海を渡る道である。砂洲によってセパレートされた西側が阿蘇海、東側が宮津湾である。

車に家人を乗せて、高速道路をひた走り、成相寺を訪ねたのは、夏空に梅雨雲が屯する7月半ばの事である。

宮津湾の脇に建つ成相山成相寺は西国三十三所の28番札所である。西国一の美人観音として名高い聖観世音菩薩をお参りして、願うは、家族の健康とコロナ撲滅。本堂にある納経所で御朱印をもらった。

本堂から車で約2km登ると成相山山頂の展望台である。迎えてくれたのは、爽やかな空気と絶景だ。展望デッキに立てば、天橋立と宮津湾を眼下に望むパノラマである。カフェで冷たいものが飲めた。美味い空気を吸うべくオヤジはマスクを外そうとするのだが、メガネの弦に紐が引っ掛かる。いちいちが鬱陶しいコロナ世情である。

“天橋立とノスタルジーの海” の続きを読む

尾道ラーメンと備中国分寺と横溝映画 -瀬戸内しまなみ海道の旅その4-

自転車を室内に置きたいと言うと、フロント係は、快く応じてくれた。そして、ベッドの足下にビニールシートを敷いてくれた。ベッドの足下は、自転車を置くには、ちょうど良いニッチなスペースだった。

尾道ラーメン 一丁福山駅前の繁華街に出た。駅前の路地を歩いて、少し迷って、お目当ての店を見つけた。『尾道ラーメン 一丁』である。ネット評によると、地元では知らない者はないぐらいの超の付く人気店という事だ。

カウンターだけの店は、すでに満席だった。待ち客までいる。ハッキリ言って店は狭い。しばらくすると席が空いた。

尾道ラーメン 一丁入口付近にある発券機で食券を買う方式である。注文は、ラーメンとチャーハンのセット。

背油が浮いた深い色の醤油ラーメンが出てきた。チャーシューと刻みネギが乗っている。麺はストレート。入口に製麺所と書いてあったので、自家製麺だろう。たちまち平らげた。おいしゅうございました。

ホテルに戻って、もう一度風呂に入った。今日の走行距離は、ここしばらくなかった運動量である。オヤジはハリキリ過ぎである。どうやら代謝が追い付いて無いようだ。身体は疲れていたが、老廃物を出すためか、どんどん発汗していた。

ビールを飲んで、ベッドに横たわった。別に心配していないだろうが、スマホで、家人に無事を報告したり、明日の天気を見たりした。それも束の間。睡魔の懐に呼ばれるのに時間は掛からなかった。

“尾道ラーメンと備中国分寺と横溝映画 -瀬戸内しまなみ海道の旅その4-” の続きを読む

多々羅の龍と尾道と渡船フェリー -瀬戸内しまなみ海道の旅その3-

多々羅大橋には龍が棲んでる。橋の中ほどの愛媛と広島の県境を過ぎて、しばらく進むと、多々羅鳴き龍というスポットがある。そこは、橋のワイヤーを束ねる主塔の根本にあたる。そこでパンと両手を叩いた。すると、ヴァン、ヴァン、ヴァン・・・と音が響鳴して空へ昇っていった。鳴き龍である。

多々羅鳴き龍の動画

多々羅大橋伯方島の塩、生口島の檸檬、因島の除虫菊、その他諸々、しまなみに海道は名産やグルメが多くある。しまなみ海道の見どころは、多くのメディアで紹介され、同海道を特集した雑誌は数知れない。今や、サイクリスト達から、最も注目される観光地となっている。注目は国内だけとは限らない。行く先々で相当数の外国人サイクリストを見かけた。

瀬戸内海はその名の通り、日本列島の内海である。穏やかで温暖な気候。すべては海と太陽の恩恵の上にある。自転車で走れば、かいま見える島の生活や文化が示唆的である。どうしようもない都会の価値観に毒された頭には良薬だ。島と島を繋いだ道は、海と空を貫いて延びる。時速20キロで見る景色が命を洗濯してくれる。 “多々羅の龍と尾道と渡船フェリー -瀬戸内しまなみ海道の旅その3-” の続きを読む

しまなみ海道とお遍路文化 -瀬戸内しまなみ海道の旅その2-

オレンジフェリー

オレンジフェリーは定刻通り、朝6時に東予港に到着した。たまに響く船のスクリュー音を聞きながらの一夜だった。浅い眠りから目覚めた私は、身支度をして、組み立てたロードバイクを引いて船を降りた。

生まれて初めて四国に足を踏み入れた。輪行して四国に入るという、ここ数年の希望が叶った朝だった。曇り空で気温は相当低い。ショートのレーパンではちょっと寒い。予報によれば晴れになるハズである。

瀬戸内沿岸をトレースする予讃線を横目に国道を漕ぎ進んだ。目指すは、しまなみ海道の起点、今治市である。

四国には「お接待」という文化が根付いている。お接待とは無償でお遍路さんにお菓子や飲み物などを施すことを言う。四国の人々が、旅人を助ける文化は、お遍路に限った事ではないようだ。それは、四国の地に降り立って早々、ヘルメットにサングラス、半レーパン姿という私にも向けられた。四国の人の心に触れる出来事だった。

“しまなみ海道とお遍路文化 -瀬戸内しまなみ海道の旅その2-” の続きを読む

旅の支度とオレンジフェリー -瀬戸内しまなみ海道の旅その1-

旅は準備している時間が楽しい。まだ見ぬ風景や食べ物に思いを馳せてゴソゴソやるのが至福の時である。知らない町を走ってみたい。遠くへ行きたい。そんな飽くなき放浪欲求が、懲りない自転車オヤジの原動力である。

しかしながら、妄想の中では、なかなかのアスリートだから、しばしば調子に乗って、大風呂敷な計画を立ててしまう。それは禁物である。若い頃とは違うのだ。自分の体力と鈍脚を思えば、距離は程々にして、安全第一を肝に命じなければならない。それが、ひとり旅ならなお更だ。

ロードバイクを逆さに置いて、2本のホイールを外す。外れた2本のホイールでフレームを挟んで固定する。このとき私は、マジックテープ付きのゴムバンドを使う。これを輪行袋に収めれば、大方は完了である。輪行バッグにはボトルとサイクルシューズも収納した。

長旅だし、身体は重いし、荷物はできるだけ軽くしたい。バックパックの中身は、チューブ2本、ボンベ、小型ポンプ、ミラーレス一眼、タオル、最低限の衣類、携帯の充電コードなどである。それから財布には健康保険証のコピーを入れた。備えあれば・・である。

“旅の支度とオレンジフェリー -瀬戸内しまなみ海道の旅その1-” の続きを読む