今年の梅雨前線は働き者だ。京都も連日雨が降っている。たっぷりと水を蓄えた西山連峰は紫陽花が盛期である。写真と短文を少し。
七変化の花と東アジア
雨の土曜日、空は灰色である。日本列島に貼りつく梅雨前線は、堅実な仕事ぶりで、京都西山連峰にも、ちゃんと雨を降らせている。灼熱の太陽が現れる前に、夏本番が来る前に、膨大な降水をもたらす。梅雨がくれる分け前は、あらゆる生命にとって、命の水である。それは、四季を操るモンスーン気候の壮大な仕掛けだ。
善峯寺を訪ねた。同伴者は、ウソかホントか、李王朝ゆかりの風水師だという家人である。二人で山門をくぐるのは3年ぶり。前回と違うのは、互いの年齢と、今年は傘が必要なことだ。急峻な小塩山の中腹に建つ古刹は、霧雨に濡れそぼる。入山料は1人500円也。
天空の集落と水の器
“よしみね道”と呼ばれる府道208号は善峰寺へ続く道である。道としての歴史は相当古いと思われる。向日神社の南、西国街道に端を発する同道は、大原野を横断して、西山々麓へと分け入って行く。
ゴルフ練習場を過ぎて、高速道路の橋脚をくぐった辺りから勾配は徐々に増してくる。山門の手前、バスの駐車場辺りの勾配は、15%以上だろうか。まさに”激坂”となる。脂が乗った戻り鰹のようなオヤジはとうの昔に白旗を上げている。ペダルを外してゼイゼイ、ハアハア、まったくの役不足である。
険峻な小塩山(おじおやま)の中腹にある善峰寺は、崖に建っているも同然だ。自転車で山門まで来るのも大変な試練だが、実は、その先も激坂は続いている。善峰寺の坂道が本当に恐ろしいのはここからなのだ。天空の集落、杉谷までの上りは、最大斜度が30%にもなろうかという極悪非道ぶりだ。坂というより壁である。時折、若いローディーを見かけるが、彼らは猛者である。
杉谷集落と善峯寺の紫陽花
水もしたたる悪女と十輪寺の紫陽花
梅雨入りした。毎度の事ながら天気予報は当たらない。梅雨前線の振る舞いは、まるで悪女の様に気まぐれで奔放だ。浅はかで下心が透けて見える人間の”天気読み”など当たるハズもなく、プリッと尻を向けられ肘鉄を喰らわされ日にゃ、雨の予報が見事なピーカンと相成る訳である。
大きな声では言えないが、水もしたたる悪女、梅雨姉さんには小笠原気団とかいうパトロンがいる。このダンナがまた暑苦しいオヤジである。頼みもしないのに高温で湿った空気をどんどん運んできて、カビは生やすは、モノは腐らすはで、どうにもならない。熱帯性だか、太平洋性だか知らないが、ジメジメしていてホンマに鬱陶しい。
そんな梅雨の晴れ間に自転車に乗った。暑さと湿気でペダルの音も湿り勝ちである。夏景色の田畑を進み、竹林を抜けて、坂を登れば、もう汗だくだ。善峰寺に通じる坂の途中に十輪寺という寺がある。案内板に因ると、同寺は平安期の粋なオヤジ、在原業平の庵だったとある。別名、業平寺とも呼ばれるらしい。山門の脇に咲くのは、涼しげに色づいた紫陽花だった。余り追い込むな、夏は長いぞ、ぼちぼち適当に行けよ。ブラジャー!